今年も酪農家にとっては大変な夏が近づいてきました。
この時期は、乳脂率が3.5%を切ってしまいペナルティーを支払わなければない酪農家さんから「何とかならないか?」との相談をよく受けます。乳脂率の低下は、多くの場合で給与飼料のバランスが崩れているときに起こるので、給与メニューを見直すことで改善が可能です。
乳脂率が低下するということはウシが健康な状態では無いことを意味しています。多くの場合、適切な飼料設計を行うことで改善が可能です。
(飼料設計についてはお近くのJA、くみあい飼料にご相談ください)
古くから乳脂率の低下は、粗飼料の不足(穀類の過剰給与)による第一胃のpH低下が原因と考えられてきましたが、最近は第一胃で不飽和脂肪酸から合成される共役リノール酸(CLA: Conjugated linoleic acid)との関連が指摘されています。CLAは抗ガン作用や体脂肪減少などの効果が認められている注目の物質ですが、この中には脂肪合成を阻害するものが含まれています。
乳脂肪の合成には大きく分けて二つの経路があります。一つは、第一胃の中で合成される酢酸や酪酸などから新たに合成(de novo合成)されるもの、そして飼料に含まれる脂肪分から合成されるものです。一部のCLAはこのde novo合成を阻害します。
乳脂肪の合成を阻害するCLAは、第一胃のpHが低下すると合成量が多くなります。第一胃のpHは、不適切な内容の飼料が与えられることと併せて、暑熱ストレスがかかることで低下するため、夏場は乳脂率が低下しやすいのです。
実際に相談のあった事例を示しますので改善策の参考にしてください。
7月から夏場の乳量低下(24 kg)と併せて乳脂率低下(3.4 %)、体細胞数の増加(40 万/ml)に悩んでおられた。ペナルティーが発生していることからJAを通じて小職に相談。
相談を受けて、実際に農場を確認したところ次のような状況が目に留まりました。
この農場では、独立系の酪農コンサルタント(獣医師)が技術指導を行っていましたが、成績が改善しないことから相談を受けました。現場を観察したところ牛の状態は芳しくありませんでした。飼料はTMRで給与されており、飼料設計ソフトを用いて計算し設定値は推奨値に収まるものとなっていました。しかし、ビール粕、豆腐粕、醤油粕など副産物を多く使用しており、粗飼料割合が低く(約38 %)、粗脂肪割合がやや高い(約5 %)ことが気になりました。
そこで、改善策として副産物の使用量を減らすことで粗脂肪割合を減少させ(4.0%)、粗飼料割合を50%まで引き上げました。また、ビタミン剤など添加物を過剰に使用していましたので、これらを適切なレベルまで引き下げることでコストが増えないように配慮しました。
粗飼料割合を増やして脂肪原料を減らすという対処方法に対して、酪農家さんからは「エネルギーが下がるので乳量が低下するのではないか?」と心配されました。しかし、牛を観察した様子から乳量は維持可能であり、むしろ採食量が増加することで乳量が伸びるのではないかと考えていました。
飼料変更後、翌日に酪農家さんから連絡があり、「採食量が明らかに高まった!」とのうれしい電話が入りました。目論見通り、約2週間で乳量は29 kgまで増加し、乳脂率は3.7 %まで上昇しました。併せて多発していた第四胃変位やケトーシス、乳房炎も減少しました。
夏場の乳脂率低下が問題となっている酪農家さんは、乳成分以外にも乳房炎や繁殖成績などにも問題を抱えていることが多いのですが、乳脂率を改善するために給与メニューを変更することで他の問題もなくなることが多いようです。やはり第一胃の健康を保つことが生産性を高めるうえで重要であるということを実感した事例でした。
乳脂率の低下にお悩みの酪農家さんは、近くのJA、くみあい飼料にご相談ください。